「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第12回「一億本の向日葵」 ~鎧を脱いで飛び込む~

第12回「一億本の向日葵」

~鎧を脱いで飛び込む~

11月23日㈮に順天堂大学で行われた「がん哲学外来ナース部会」全国大会『医療の隙間を埋める看護師の役割~21世紀の医療の隙間を埋めるブリッジ(懸け橋)とならん~』に参加する機会を頂いた。医療者ではない私はどういう立場で話を聞いたのだろう。患者の立場か、がん哲学カフェの主宰者か。東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科 がんエンドオブライフケア看護学分野准教授の山﨑智子先生が、基調講演の中で「看護師としての役割で医療の“隙間を埋める”という思いで始めたが、がん哲学は看護師自身の隙間を埋める活動となっている。」と、がん哲学外来メディカルカフェでのお話をして下さった。また医療者のユニフォーム“白衣マジック”は、患者さんの医療者への信頼感を築く反面、心理的な壁を作り上げ、心を開きにくい状況を作っているともお話をされた。パネリストとして登壇された看護師の皆さんの病院での、カフェでの、自身の人生での経験談は、胸にグッとくるものがあった。病院では、解決が難しい患者の苦悩を、看護師の方々は我がことのように痛みとして感じている。看護師であってもひとりの人間であり、自分の人生の中でも患者と同様に様々なことが起こっている。そのようなお話を聞いているうちに、白衣というのは、ある種の鎧なのだと感じるようになった。自分の痛みを覆い隠す鎧。そして、患者を頼もしく守る鎧。自分の痛みを覆い隠す鎧を脱ぐことはどれだけ勇気がいるのだろう。弱さや痛みがあったら、患者を守ることはできないのであろうか。その問いの答えががん哲学にはあるのだと思う。

がん哲学外来ナース部会の看護師の方々は、まさに勇気を持ってその鎧を見据え、脱ぐことを厭わなかった。そして、患者の痛みに馴れることなく、一緒に痛みを感じ続けてくれている。弱さや痛みを理解している存在が、どれだけ患者の心や存在を癒すか。病院の外で白衣を脱いで“がん哲学外来メディカルカフェ”に身を置き、自分を見つめ、患者、家族の人生に真剣に耳を傾け続ける取り組みが、本当の意味で患者と医療者の両者を守るもっと大きな器という鎧になっている事を目の当たりにし、心から感動を覚えた。一患者としての隙間を埋めてほしいという希望も、カフェの主宰者として実践を学びたいという意欲も隅っこへ追いやり、私個人として、皆さん自身の使命感への熱意とまなざしに心が震えた。

 

「病気は単なる個性」

「病気であっても病人ではない」

 

病気はその人の人生のほんの一部分でしかない。その他の大部分にたくさんの“その人らしさ”“心に咲く花の種”が埋まっている。それに気付くために、患者自身も“病人”という鎧を脱げるような場に身を置くことが大きな癒しとなるのではないか。がん哲学外来メディカルカフェの役割は“安心して鎧を脱げる場所”であり、“互いの人生に学び合い、研鑽を積める場所”であることだと改めて確認した。そして、そんな場所が増え、地域を包んでいったら、どんなにたくさんの“心に咲く花”が見られるだろうと、心が躍る日となった。

智恵美写真

ひまわり担当🌻斉藤