「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第16回 『一億本の向日葵』 ~ことばの処方箋を感じる~

第16回 『一億本の向日葵』

~ことばの処方箋を感じる~

12月22日・23日に、万座温泉日進館で行われた『がん哲学外来クリスマスパーティー』に参加させて頂いた。標高1800メートルに位置する万座温泉は、湯治場としても名高く、泉質の良さ、おもてなしの温かさ、偉大なる自然の包容力が、肌で感じられる最高の環境である。「一人の人を癒すために、一つの村が必要である」という樋野先生の”Medical village “のモデルであることを体感した。クリスマスパーティーでは、歌、ダンス、おいしいお食事を楽しみ、その後は一般の宿泊者も参加できる樋野先生のミニ講演会も行われとても有意義な時間を過ごした。その後の歓談の席で、語り合われたことがとても印象に残った。

 

「ことばの処方箋」。がん哲学や樋野先生についてご存知の方には、とても馴染みなる言葉である。「ことば」は、ある程度だれでも自由に扱うことができるコミュニケーションの道具であり、「処方箋」は医師が処方を書き記した文書を示した言葉である。一般的な要素と専門的な要素が結びついた面白い言葉である。薬は、患者の手元に届くまでに気の遠くなるような過程を通ってきている。病気の研究、薬の研究、診察、診断、などなどなど・・・私には想像もつかない程である。副作用があるからもちろんであるが、それほど精密に慎重に扱われている。だからこそ医師の正確な判断に基づいた処方箋が必要である。「ことば」はどうであろう。歓談の中で触れられた「ことばの処方箋」の話から、処方される「ことばたち」も偉大なる先人たち、樋野先生の恩師、樋野先生自身の様々な研究過程を経て、悩める人の心によりストレートに届くような言葉になっているのだと知った。そして、“相手の必要に共感する”対話が、処方には欠かせない。自分の感情を押し付けては、診察同様に的確な処方はできないことも学んだ。人は言葉によって元気づけられることもあれば、傷つけられることもある。日々何気なく使っている言葉が、「ことばの処方箋」のように自分や周囲を勇気づけるものであったら、日々の出来事の見え方、感じ方も大きく変化するだろう。樋野先生から処方された言葉が、その人の中でどのように作用していくのか。それはまるで、「その人」と「言葉」との人生を紡ぐ協働作業なのではないか。何気ない歓談の中で、たくさんの気付きを頂き、本当に嬉しい時間であった。

ひまわり担当🌻斉藤智恵美