「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第19回『一億本の向日葵』 ~“自分だけ”例外を外す~

第19回『一億本の向日葵』

~“自分だけ”例外を外す~

 

昨日で『心に咲く花』会が設立して5カ月が経った。私にとって、文字通り“濃い”時間で、様々な事に対してより深く考える癖がついてきたように思う。『心に咲く花』というキーワードを意識しない日はないほど、自分の中に大きな柱となって存在し、常にその視点を持つことを促してくれている。普段、介護という仕事を通して、ご高齢の方、病や障害と共に生きる方と交流の機会を頂いているが、『心に咲く花』という見えない花の種を探す習慣が、こんなにも喜びを運んでくれるものかとつくづく感じる毎日である。

『心に咲く花』は、その人が最も輝く個性であり、その輝きは周囲をも明るくする。そして、その輝きは、使命感を伴うことでより輝きを増す。介護の現場で出会う方々や、カフェで出会う闘病中の方々の中には、社会との間に大きな壁を感じている方が少なくない。それゆえに、自分の中にある『心に咲く花』の種を見失っていたり、“そんなものはない”と思い込んでしまっている場合もある。私自身もその気持ちがとてもよく理解できる。“個性”というと、際立ったもの、大それたもののように感じ、社会に提供できるものなど何もないという思いが重くのしかかってくる――――。

私は時々、家族性・進行性の病による重度心身障害を抱えた高志さん(当時20代)と過ごした日々を思い出す。病気の進行により、意思疎通が難しかった高志さん。病による過度な筋肉の緊張で歯を食いしばり辛い表情をしているか、その緊張を和らげるための薬によりウトウトしているかの繰り返しであったが、元気な頃に接していた方から「高志さんは水戸黄門が大好きだ」と聞いていた私たちスタッフは、高志さんとの活動時に、本気で水戸黄門の歌を歌った。時にはかつらをかぶって、時にはタンバリンを持って。女性にとっては高いキーで歌うか低いキーで歌うか難しい曲だが、“高志さんの笑顔が見たい”その一心で歌った。

「高志さんが笑った!」

声はない。静かにゆっくりと口角があがり、白い歯が見えた。

笑顔がこんなにも幸せを届けてくれる。思い出すだけでも、何とも滑稽な私たちの姿に笑いが込み上げてくるが、この経験をした私は、心から溢れ出た笑顔は、『心に咲く花』の芽であり、周囲を本当に明るくするということ、それがどんな人の中にも存在すると知ることができた。今現在接している方々の笑顔からも、どれだけ多くの喜びを頂いているかわからない。ただ困ったことに、“自分だけ”は例外になりやすい。「私が楽しんで、心から笑うことが周りの人を幸せにする」なんて信じられないのである。これはきっと多くの方が感じられているのではないかと思う。今年は私の、多くの方の“自分だけ”の例外が外され、暖かくなる頃にはたくさんの『心に咲く花』の芽が見られるように、日々土壌を柔らかくすることに励みたい。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美