「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第27回『一億本の向日葵』 ~がんとの出会いは、新しい人生の始まり~


第27回『一億本の向日葵』

~がんとの出会いは、新しい人生の始まり~

がん哲学外来に出会い、がんと生きる人々やがんと生きる人を支える人々と出会い、お話を聴かせて頂く中で、がんとの出会いは、新しい人生の始まりだと思うようになりました。私たちにとってがんとの出会いは突然であり、衝撃的です。自分の世界が突如、遠くまで見通せる穏やかな海から、1メートル先でさえ見えない荒波の海に変化したように感じられるのではないでしょうか。私も診断当時、この先自分がどうなっていくのか、治療と仕事、育児をどう乗り越えていくのか、想像でさえ難しかったのを覚えています。

先月の松本がん哲学みずたまカフェで、ある方からご紹介頂いていたエッセイ「乗り換えの多い旅」(田辺聖子著)を朗読させて頂きました。――人生の電車は、たいへん、乗り換えの多い旅なのかもしれない――エッセイの中では、それまでの生き方を変えなければならないような出来事を“乗り換え駅が来た”と表現していますが、きっとがんとの出会いもその“乗り換え駅”の一つなのではないでしょうか。生きる中で突然出会う“想像していた未来を変えてしまう出来事”。私たちはその時に、「なぜこうなってしまったのか。」と考え込み、今までの電車の中で悩むこともできます。また「なってしまったものは仕方ない。」と新たな視点で周囲を見渡し、別の電車に乗り換えることもできます。どちらであっても、その出来事に出会う前の自分とは、少しずつ違う景色が見えているはずです。この“違い”が、新しい人生の始まりを感じさせるのだと思います。がんと出会うことは、理不尽さ、悲しみや辛さを伴います。だからこそこの“違い”や“違和感”が、今までとは違う人生の始まりを後押し、乗り換えを促します。「そんな後押し頼んでいません!」と言いたくなるところですが、その後押しを受け入れ、新しい電車の車窓から外の景色を眺めたり、時に車内をウロウロ彷徨いながら、少しずつ新しい人生に馴染んでいくのだと思います。

今日3月10日、軽井沢病院で「第5回信州大学がん哲学外来in軽井沢」が開催され、私も参加させて頂いてきました。樋野先生はお話の中で、“いぬのおまわりさん=困っている人と一緒に困ってくれる人”の存在意義について触れられました。乗り換え駅が来たけれど、戸惑い、心が落ち着かず、今までの電車が良かったと思ってしまう、そんな“迷子の子ネコちゃん”のような経験が、“いぬのおまわりさん”にとって大きな宝物になります。そして、目の前の子ネコちゃんの気持ちをきっと軽くするのでしょう。計画していなかった“乗り換え”が、新しい人生を連れてきた時、上手にすんなりと乗り換えることは難しい。でもそこには”いぬのおまわりさん行き“のプレミアムな宝物が用意されているかもしれない。そんな風に思ったら、乗り換えも少し楽しみになりますね。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美