「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第33回『一億本の向日葵』 ~感情を経験する覚悟~

第33回『一億本の向日葵』

~感情を経験する覚悟~

私たちは生きる中で、日々の中で様々な感情を体験していると思います。嬉しいことや楽しいことだけでなく、悲しいこと苦しいことなど、こと細かく見ていけば1時間の中でもきっとあっちやこっちといろいろな気持ちを体験しています。そしてそこには必ずその気持ちを引き起こす出来事や考えがあります。私の日常で言えば・・・息子が新しい算数セットを持ち帰ってきて、その中の細かい道具一つ一つ計150個に名前シールを貼らなければならない。想像するだけで少し面倒だなという気持ちを味わいます。しかしその直後には、息子のふざけて踊る姿を見て楽しい気持ちを味わう。これらの感情の行き来は日々の中でもよくある出来事ですので、そこに感情があることでさえ改めて意識をする人は少ないかもしれません。しかし、その感情の引き金となる出来事によっては、その感情の存在感はとても大きくなり、手に負えない、手放したいと思うこともあります。もう何年も前ですが、悩みを抱えていた私の友人が立てた新年の目標がとても印象的でした。彼女の立てた目標は「平常心」。何があってもぶれない心で居たいと話すのを聞いていて、なるほど・・と思ったのを今でも覚えています。私も日々感情に振り回されていますが、そんな時の私の特効薬は樋野先生の言葉の処方箋「ほっとけ ほっとけ 気にするな」です。それでもまだ気持ちが落ち着かない時には、ご講演でお話して下さる新渡戸稲造の言葉「センス・オブ・プロポーション=大切なことを大切だ、どうでもいいことをどうでもいいと優先順位をきちんとつけられるバランス感覚を養う。」を思い出し、「これは私にとって重要で大切なことだろうか?」と自問します。するとたいてい場合、ほっとけることだと気が付きます。しかし自分にとってとても重要でほっとくことができない出来事も時にはあります。そんな時には「一日一時間の静思」がいいと樋野先生はヒントを下さいます。一人静かな場所で自分にとって重要なことにとことん向き合う。そこにはそれに伴う感情にもとことん向き合うという意味が含まれていると私は思っています。普段は尻込みして触れないようにしている感情。その感情の存在を許す覚悟。揺れ動く感情、一番恐れていた感情の存在を受け入れる覚悟が、大きな流れの中でバランスを崩さず平常心を保つ方法なのかもしれません。

4月20日に参加させて頂いた八ヶ岳のメディカルカフェで、がんを患う家族を支える方々のお話を聴いて「がん哲学」はカフェの時間以外にもずっと続いていると改めて感じました。暖かい陽ざしの中、とても充実した時間を過ごしました。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美