第34回『一億本の向日葵』
~喜びはここに~
昨年の春、新緑の木々の葉っぱの間からきらきらと木漏れ日が差し込む松本市のあがたの森文化会館の別棟の2階で、私はカフェの準備をしていました。そこには5月3日から新宿武蔵野館で上映がスタートする ドキュメンタリー映画『がんと生きる 言葉の処方箋』 の野澤監督とカメラマンの堂本さんが同行され、テーブルや椅子、お茶を用意する私の姿を撮影していました。そこに静かに入ってこられた年配の女性。準備も一段落していたので少し隣に座ってお話を伺いました。その私たちの様子を見ていて何か感ずるものがあったのか野澤監督は「お母さん、この本お母さんに差し上げますよ。」と撮影時にいつも持ち歩いていた樋野先生のご本をその女性に差し上げたのでした。その方はカフェの語り合いの時間にはいつも「私は耳が遠くて皆さんの声がうまく聞こえないもんですから・・でも皆さんのお顔に元気をもらっています。」とほとんどお話なさらないのですが、遠く離れたところに住む娘さんが乳がんを患い、その娘さんの姿を重ねながらカフェに参加している方々のお話を静かに聴いて下さっているようでした。昨年の8月11日に樋野先生をお招きして講演会を開催した時にも、「こんな素晴らしい先生にお会いできるなんて嬉しい。」と笑顔でお話してくださいました。それから約半年間、その方がカフェに訪れることはなく、カフェの度にその方のお顔を思い浮かべてはどうされているかな・・と思っておりました。また映画『がんと生きる 言葉の処方箋』のことに触れる度に思い出される存在でした。
昨日は4月のカフェ開催日。昨年とは違いカフェの準備も私一人ではなく、お二人の方が手伝って下さいました。一通りの準備を終え、フロアの椅子に座ってミーティングをしていた時、エレベーターの前に立つ一人の女性の後ろ姿に目が留まりました。「あっ!」と思った私はドアのしまったエレベーターを追いかけて階段を駆け上がりました。そしてその姿を見つけ、声をかけました。感極まり思わず二人で抱き合い、この半年間のできごとをお聴きしました。ここに足を運ぶ元気を取り戻すまでにどれだけの道のりがあっただろう・・・とお顔を見せて下さったことに心から感謝の気持ちと喜びが溢れました。カフェで色々な方とお話して笑顔を見せて下さったその帰り際、「監督さんは元気?手術したばかりだって言っていたから気になってね。」と野澤監督の事を気にかけて声をかけて下さいました。「もうすぐ上映なので、元気に飛び回っていらっしゃいますよ。」と返すととても嬉しそうに「良かった。」と答えられました。月に一回のカフェ。毎回お会いできることは奇跡かもしれない。そう思わずにはいられない出来事でした。
映画上映まであと数日。
この映画がたくさんの方の明日の力になりますように。
ひまわり担当🌻齋藤智恵美