「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第36回『一億本の向日葵』 ~細胞の個性を感じられたら~        

第36回『一億本の向日葵』

~細胞の個性を感じられたら~   

がん哲学外来のドキュメンタリー映画『がんと生きる ことばの処方箋』が、5月3日~新宿武蔵野館で、5月12日~名古屋シネマスコーレで上映されています。本当に多くの方が足を運んで下さり、連日満員だとお聞きしております。映画を観て下さった方からご感想やエールを頂き、この映画が観る方の心に大切なものを届けている存在であることを改めて実感している今日この頃です。そんな状況にギャップを感じながら、今日は子ども大縄跳び練習に付き添い、子どもたちと一緒に無邪気に楽しんで大縄跳び30回を目指して頑張りました。

 

2人に1人ががんになる時代。よく耳にするキーワードです。その統計的な数字は、かけがえのない“個”の存在の集合であることを、私はがんに罹患したことで感じられるようになりました。たとえその“2人に1人”のひとりになってもならなくても、命の火が消えるまで生きていく“私”という存在にはかわりはありません。「ただただ懸命に“宴”の気持ちを持って生きている今」という時間が重なっていく。その事をたくさんの出会いから学びました。私たちの体も想像もできないほどの細胞の集合体ですが、国や世界、地球にとって私たちは体の細胞の一つ一つに近い存在です。統計の中、集合体の中に含まれると、個性は見失われるのかもしれません。

 

私は自分の体にがんができたことを知った時から、自分の細胞の個性、特にがん細胞の個性に、なぜか心が惹かれるようになりました。予定していた手術を一度キャンセルした時、私は主治医の先生と看護師さん、両親を前に「このがんからの声を聞きたいのです。」と正直な気持ちを伝え、本当に驚かれ、そして心配をかけました。ですので、それから2年間、がん哲学と出会うまで、このことは誰にも話さず、自分の中にしまっておきました。がん哲学に出会い、樋野先生が著書の中で書かれていた「がんは不良息子のようなもの」「がんの賢さに学べ」という言葉と出会った時、喜びが溢れたのを覚えています。私という存在がかけがえの存在であるように、一つ一つの細胞、そしてがん細胞もかけがえのない存在であると、まるで自分自身を認めてもらえた、この世に意味を持たない存在などないと教えてもらえた、そんな気がしたのです。

 

がん細胞自身が自分という存在が、この大きな集合体の体に悪影響を与えている事実を知ったら、きっと悲しい気持ち居たたまれない気持ちになり、自分の存在を恨むだろうな・・・。がん細胞からも学ぶ姿勢を貫く樋野先生の顕微鏡からがん細胞を見つめるまなざしは、がんに悩む私たちに向ける温かなまなざしと同じなのかもしれない、だからこそ人は“言葉の処方箋”から自分の生き方を変え得るものを受け取っていくのかもしれない、そんな風に思うのです。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美