「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第37回『一億本の向日葵』 ~自分の視野を超えて~

第37回『一億本の向日葵』

~自分の視野を超えて~

カラッとした晴れの日が続いています。松本の木々はお日様の光を少し通しながら、新緑の柔らかな葉っぱをサワサワと揺らし、公園では藤の花がゆらゆらときれいに咲いています。自宅の近くを流れる川の河川敷からはバーベキューを楽しむ人の声や焼き肉のおいしそうな匂いが漂ってきて、穏やかで清々しい季節を感じています。

 

私はがんになってから本当に多くの方との出会いを頂いています。がんにならなければ出会うことがなかった大切な出会いです。人と人との出会いというのは、当たり前のようでいて、それぞれの人生と人生が偶然に交差するとても奇跡的なことです。私にとってがんになったことも、樋野先生の考え方に触れたことも、松本でカフェを開催することになったことも、そこでの参加者の方々との出会いも、本当に偶然の重なり合いのように感じています。一人の人生だけでは成り立たない。だから出会いには「織り成す」や「紡ぐ」という言葉がぴったりなのだと思います。

がん哲学を通して、メディカルカフェの活動を通して色々な方と出会い、お話を聴かせて頂いています。色々な方の経験や想いを聴くことは、その方の人生に出会わせてもらうことです。私一人の人生からは見えなかったもの、自分の視野を超えたものがそこにはあります。喜びも、悲しみも、自分の視野で感じられているものには限りがあることを実感するのと共に、一緒に感じさせて頂く経験は私の視野も少しずつ広げてくれます。逆に、お話を聴いていて、その方が気付けずにいる可能性がはっきりと感じられる時もあります。それはきっとその方の視野を超えたものなのだと思います。視野を超えたというより、違う視点と言う表現の方が適当かもしれません。樋野先生の「言葉の処方箋」は、その方が気付かずにいる可能性からそっと投げかけられます。それを今受け取っても、後で受け取っても、受け取らなくても自由なのですが、受け取りにくい「言葉の処方箋」ほど、私の視野を大きく超えているようです。その言葉を、時間をかけて受け取れた時、音を立てて視野の壁が崩れ、新しいものが見えてくる気がします。これはなかなか苦しい行程でもありますが、同時に大きな喜びを運んで来てくれます。

 

出会いがなければ見えないもの。

私の視野を超えたもの。

これからもそういったものに心を閉じることなく静かに飛び込むことを大事にしたいと思っています。

 

ひまわり担当🌻齋藤智恵美