「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第45回『一億本の向日葵』~いつでも一億本の向日葵は咲いている~

第45回『一億本の向日葵』

~いつでも一億本の向日葵は咲いている~

先週末は、川越での「がん哲学外来コーディネーター養成講座」に、松本がん哲学みずたまカフェに集う数名の方々と一緒に参加しました。一年目は、右も左も良く分からない状態で飛び込んだ神戸大会。二年目は大雨の中、車で向かった富山大会。そして、三年目は仲間と共に参加できた川越大会。夢中で走っていたら、もう三回目だった!というのが、正直な感想です。今までも、今も、これからも、自分や大切な人、患者さんの「生と死」に向き合い、その近くで自分にどんな在り方ができるのか、いかに生きることができるのかを真剣に考える人々が集まった会場には、熱気と共に、深く深く静かに流れる信頼感があります。だからこそ、安心して話ができ、すぐに答えのでない深いテーマにも臆することなく踏み込んで行けるのだと思います。樋野先生が作りあげて来られた「がん哲学」という大きな大きな空っぽの器には、本当にのびのびとした自由で広い空間があります。多様性があります。ひしめき合う狭い空間の中では、個性という花が咲いたとしても、ぶつかり合ってしまったり、埋もれてしまったりするかもしれません。しかし、「がん哲学」を通して出会う方々の輪は、誰を邪魔することなく、美しいコントラストを保ちながら、それぞれの個性的な花を咲かせています。

私は少し前まで、カフェの活動の中で「一億本の向日葵」=「一人一人の花」を咲かせるにはどうしたらいいのだろうと考えていました。そこには種や小さな苗のような弱々しい姿が想像されますが、それに対してずっと違和感を感じていました。「もうすでに個性という花が咲いている。しかも一本一本力強く…。」これが最近の体感です。カフェの中で語られるそれぞれのがんとの向き合い方、それぞれの生き方は、全てが本当に個性的です。一見、今は前を向けない弱々しい状態に見えたとしても、不安や悩みが言葉として表現され、上澄みが綺麗になっていくと、自然と力強く、個性的な本来の姿が浮き上がってきます。その変化を受け入れることが、カフェの大事な役割だと感じています。変化することは時に、受け入れられないかもしれないという不安や怖さを伴います。「がん哲学」の空っぽの器が、一対一だけでなく、複数の人が集まる空間の中で、変化が許されている広く頑丈な場所であることは、大きな役割のひとつです。一億本の向日葵にとっての肥えた畑のようなカフェが増えたらいいな…と思います。樋野先生がとても個性的であるように、それぞれのカフェも独自の個性を育て続けています。今後、遥か上空から見た時に、がん哲学が作り出した景色がどのように見えるのか、とても興味をそそられます。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美