「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第48回『一億本の向日葵』 ~近くのひまわり畑が教えてくれたこと~

第48回『一億本の向日葵』

~近くのひまわり畑が教えてくれたこと~

我が家から息子の通う小学校へ向かう道は、田んぼや畑に囲まれています。収穫を待つトウモロコシや、ミニトマト、キュウリ、穂をつけ始めた稲など、豊穣を身近に感じることができます。その中に、ひと際目立つひまわり畑があります。一斉に太陽の方向に顔を向けているひまわりたちの姿、太陽が沈み、種の重みでうなだれるように下を向くひまわりの姿からは、生きることへの真っ直ぐな姿が見てとれます。数日前の夕方、私はひまわり畑を写真に収めようと思い、畑に向かいましたが、花盛りを過ぎたひまわりたちがみんな下を向いている景色を見て、私は残念な気持ちになりました。私は無意識に元気な姿を求めていたようです。植物が芽を出し、栄養分を蓄えて成長し、次の命のために種を落とし、自分の命を終えていくという当たり前のサイクルの中に、私は勝手に優劣をつけてしまっていたのだと気が付きました。満開のひまわりが天真爛漫に咲き誇る姿は本当に見事です。自然と惹きつけられます。でも、それまで、そして、それからの姿にだって、同じだけの尊さがあることを、思い出せる自分でいたいと思いました。それは、自分の事についても同じことが言えるのではないでしょうか。元気な時や順調に物事が進んでいる時の自分が素晴らしく、そうでない時の自分をできるだけ早くどうにかしたい、しなければならないと、これまで以上にもっともっとと頑張ってしまうこともあります。本来体や心をしっかり休めなければならない時だってあると思います。その時その時の役目、尊さを思い出せたら、もう少し肩の力を抜いて今を生きることができるかもしれません。

ただただ普通に咲くひまわりの存在が、思い込みの激しい私の頭を少し柔軟にしてくれる機会になりました。

来週の8月11日は、『心に咲く花』会・松本がん哲学みずたまカフェ主催のドキュメンタリー映画『がんと生きる 言葉の処方箋』の上映会、シンポジウム~病気であっても、病人ではない生き方を支える~を開催致します。たくさんの方々の温かな協力に支えられながら準備を進めて参りました。支える側・支えられる側という大きな垣根を越えて、その人らしく生きることを共に考える機会になれば、とても嬉しく思います。新しいことにチャレンジするのは、怖さも伴いますが、たくさんの気付きや喜びも運んでくれます。そんなたくさんのチャレンジを、笑顔で投げかけて下さる樋野先生は真夏のサンタさんです。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美