「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第56回『一億本の向日葵』~誰かが見ていてくれる~

第56回『一億本の向日葵』

~誰かが見ていてくれる~

先週9月22日~24日、NPO法人がんサポートかごしまの方々が主催する「いのちの授業 語り手」講座に参加させて頂きました。子どもたちに伝えたいがんの知識やがん教育を取り巻く状況、がん教育やがん患者としての外部講師に期待されることなどを学び、そして「いのちの授業」の模擬授業も受けさせて頂きました。本当に頭痛を感じるほどに、深く考え、深く感じた時間となりました。その中で最も強く心に刻まれたのは、「誰かが私を見ていてくれる」という安心を届ける授業でもあるということでした。最後の日の24日には実際に小学校での授業を見学させて頂いたのですが、教室の後ろから子どもたちの背中から伝わるものを感じながら、油断するとすぐに涙腺が崩壊する自分を何とか抑えていました。がん教育の留意点として、「子どもたちへの配慮」がとても大切だと言われています。身近な人ががんを患っていたり、身近な人をがんで亡くしていたり、自分自身が小児がんであったり、とがんという言葉がダイレクトに伝わり過ぎてしまう子どもたちもいるからです。授業を拝見していると、子どもたちの表情は本当に様々でした。それぞれの子どもたちが背景に何を持っているのか、心の中にどんな想いを持っているのか、表情からだけでは伺い知ることはできませんが、「いのちの授業」を通して、「病」や「死」「いのち」を感じ、普段は意識することのない胸の深い部分に触れているというのは感じられました。クラス約25名の子どもたちが同じ教室で同じ授業を受けているのですが、その瞬間は子どもたち一人一人の内面がまるで一人宇宙を彷徨うかのように見えて、とても不思議な感覚でした。一人ではきっととても怖いだろうその内面という宇宙の旅に付き添い見守る誰かがいる。私は授業見学をしながら、そんな風に感じました。がん哲学のカフェでも似たような事を感じることがあります。言葉少なく他の参加者の方の話に静かに耳を傾けているその方が訥々と自分の心を確認するかのように静かに語られる時があります。そのような時には気の利いた返事などできるはずもなく、ただただ丁寧に大切に耳を傾けます。行き場を失っていた想いを自分自身で受け取ろうとされる姿をただただ見守っているのですが、「ヘルプ」が届いたらすぐに反応ができる距離に誰かの存在があるというのがとても大切だと思います。

 NPO法人がんサポートかごしまの皆さんが丁寧に取り組んで来られた授業はがんを教えるがん教育ではなく、がんを教材にして「いのち」と向き合うがん教育の授業です。「あなたといういのち、あなたという存在そのものがとても愛おしくて、とても大切です」というメッセージを受け取る子どもたちの背中に、深く心を揺さぶられた3日間でした。

この機会を頂けましたことを心から感謝しています。

語り手講座2日目の3分スピーチの様子

ひまわり担当🌻齋藤智恵美