「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

特別寄稿シリーズ① 小口浩美さん(松本がん哲学みずたまカフェ)

10歳の君と~人生は不思議な出会いの連続である~の体感

(写真右下)いつも明るくカフェを支えて下さる小口浩美さん💛

みずたまカフェの齋藤智恵美さんと鹿児島弾丸ツアーをしたのは9月のことでした。

目的は「NPO法人ぴあサポートかごしま」が開催した「いのちの授業語り手講座」への参加でした。その「子どもたちのために、がんを教えるのではなくがん“で”教える…」いのちの授業でその講義で心を揺さぶられた私は、長野へ戻ってから熱にうなされたように、“がん教育”が頭の中から離れませんでした。
そこで私がとった行動は県教委の担当者に“会いに行く”ことでした。

長野県の現状が知りたいと思ったのです。

すると、この行動をきっかけに、パイロット校の公開授業や教育関係者へのセミナーなどへ参加させていただく機会を得て、扉はノックしてみるもんだなあと思っておりました。

そしてー。そこからの「人生は不思議な出会いの連続である」の体感です。

とある公開授業の見学を1週間後に控えたある日、県教委の担当者から外部講師の代打を打診されたのです。耳を疑いました。動揺しました。

聞けば、児童は「がん患者さんに聞きたいこと」を考え、すでに授業の準備をしてくれていると言います。

【大人の事情は子どもには関係ない】

そう思い、講師を引き受け私は児童の前に立ちました。

小学4年生 24人。48の瞳に十数人の見学者のセンセイ方に見つめられての講師デビューです。児童からの質問などキーワードを書いた大きなスケッチブックを持ち込み授業を展開しました。

授業がどうだったか?教育現場の大人の立場からはどうだったのかわかりません。
いたらないことが多かったはずです。

でも、嬉しかったことがあるのです。
クラスにはお父さんをがんで亡くしている〈配慮〉が必要だった児童がおりましたが
授業終了後その児童が廊下で私をつかまえてくれて、「お父さん がんで死んでるんだよ」と言いに来てくれたのです。

授業の目的に「健康な体をつくる意識を持たせたい」というテーマがあったので、私は授業の流れで夢を叶えるために健康なカラダを作ろう!と話しました。
そのとき、みんなの夢は? と聞いたところ、いちばん最初に手を挙げたのが配慮児童くんであり、その夢は「新幹線の運転手」だったのです。

そして、授業後の廊下で配慮児童くんは「お父さん新幹線の運転手だったんだよ
新幹線のレジェンドって言われてるんだよ」と誇らしげに話してくれました。


児童の家庭が見えたようで、私は彼を抱きしめたくなるのを我慢し背中に手をあてて
「話してくれてありがとう」と伝えました。

嬉しかったです
お母さんがご主人を亡くされたあと、どんなに大切に愛情を注いできたのか一瞬でわからせてもらえたようで感激しました。お父さんがいない淋しさは児童の夢となり、心の隙間を埋めてきたのではと思いました。

その後、担任に児童が話してくれたことを報告しましたら、お父さんの仕事は知らなかった。とおっしゃっていて外部講師だから引き出せることがある!と体感しました。

学校ではそっと心にしまっていたお父さんのこと。

帰宅後にお母さんとどんな話しをしたのでしょうか。お父さんへの誇りと自分の夢。
いつか、私は知らずに彼が運転する新幹線に乗っているかも知れません。

また、帰りが児童の下校時に重なりましたが授業をしたクラスの 女児が抱きつきにきてくれました。そんなこんなで初めての授業は落ち込みよりも、あったかい気持ちで帰宅の途につけました。

「人生は不思議な出会いの連続である」

10歳の君との出会いは、神さまからのご褒美だったのだと感じています。

がん教育に対して、ますます真摯に向き合っていこうと気持ちをあらたにしたできごとでした。

樋野動物園のリス ☆ 松本がん哲学みずたまカフェ 小口浩美