「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第65回『一億本の向日葵』~本当に大事なものは時間が経って思い出されるもの~

第65回『一億本の向日葵』

~本当に大事なものは時間が経って思い出されるもの~

向日葵が咲き誇る季節からだいぶ離れたこの季節。11月中旬になると、朝の車のフロントガラスには霜が降りています。北アルプスの山々も一度被った白い帽子を脱ぐことがなくなりました。この季節の冷え込みの強い朝は、視力が良くなったと思うほど、山の景色や空の色が鮮明に見えてとても綺麗です。

9月に鹿児島で受けた「いのちの授業」語り手講座以来、がん教育というキーワードが、常に私の頭の片隅にはありました。なぜ自分がそんなに興味関心を持つのか。そのエネルギーの出どころは自分でもよく分からないのですが、何となく「がん」というキーワードを通して、学校という教育の場において対等な対話の場が生まれるのではないか、と感じているからかもしれません。そんな想いを抱きつつ、11月29日に長野県教育委員会主催の「がん教育研修会」に参加させて頂きました。県内各地から集まられた学校の先生方と共に学び、グループワークで意見交換などもさせて頂きました。先生方からは日々の多忙な業務に加え、がん教育のような「○○教育」がどんどん追加される現場で、優先順位をつけて授業を行うことにとても苦労されているご様子が伺えました。そんな空気の中、少し肩身の狭い気持ちを抱えながらも、がん教育が子どもたちにどのように影響していくのか考える機会となりました。がん教育の中で学ぶ内容は、がんの予防や正しい知識、がん患者に対する理解、いのちの時間と向き合う心構え。予防ではコントロールできない部分も多い、私たちとがんとの関係の中で、例えがんになることがあっても、その人に責任はないこと、がんと共にその人らしく精一杯に生きることができること、悲しみだけではなく喜びも存在していること、多くの学びが存在すること、それぞれの人の存在そのものに価値があること。私の体験談を通して、子供たちに直に伝えられる機会に恵まれたら嬉しく思います。

30日㈯は月に一回の「松本がん哲学みずたまカフェ」を開催致しました。前の晩に息子と作ったスイートポテトをお茶菓子にして、語り合いました。久しぶりにご参加下さった方々のお顔を見られただけで満足してしまいそうになりますが、そこで語られる想いにやはり心打たれました。いのちを考えた時に、自分のいのちと自分以外のいのちでは、掴めている実感の度合いが違い、私は自分のいのちはとても掴みにくい存在のように感じています。カフェに参加して下さる方々のいのちを通して、自分のいのちの存在を掴んでいるのかもしれないな・・・とふと思いました。松本のカフェで時間を共有し、語り合う仲間がいることを深く感謝する時間となりました。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美