「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第70回『一億本の向日葵』~ひとりの願いと喜び~

第70回『一億本の向日葵』

~ひとりの願いと喜び~

明けましておめでとうございます。私の住む長野県松本市はお天道様がニコニコと顔を出しているような穏やかな年明けとなりました。毎年初詣で訪れる四柱神社で、ペチャっとした顔立ちと毛を生やしたほっぺたがとってもかわいい「松本だるま」を購入しました。ここ数年ずっと見守ってもらっています。皆さまはどんな新年を迎えられましたか?

 新しい年を迎えると意識しなくてもどんな年にしようかな・・どんな年になるかな・・とこれからの一年に思いを馳せますが、病を受取った後は、今までのように当たり前の未来に思いを馳せない自分を体験しました。当然続いていくものだと思っていたこの先の時間が、そもそも保障などされていない時間であることを目の当たりにして、自分の中に変化が起こったのだと思います。私は「道半ばで・・」という、今後完成されることがないという意味を含んだこのフレーズを耳にするたびに「本当に道半ばだったのか。その時点で完成され続けていたと考えることはできないものか。」と考えるようになりました。では、今の私が理想や願いを抱かないかというとそうでもありません。理想も願いも持っています。個人の理想も願いも、社会の理想も願いも、元を辿っていけば一人一人が幸せに健やかに今を生きるためのもので、それを測る量や長さ、形により具体的で個別的なものになるのだと気が付いた時、今の自分と理想や願いの中にいる自分がイコールであるように感じました。それはたとえ自分がこの世を去り、次の世代へと命を引き継いだ後だったとしてもです。一人一人の人が何に心を動かされ、何を喜びや幸せだと感じるのか。たとえ家族であっても、それは本人にしかわかりません。自分の幸せや喜びを感じ、表現すること。それはイコールで繋がった少し先を生きる願いの中の自分への贈り物です。そして、その贈り物は自分の周りにいる人への贈り物でもあり、私たちが誰かに与えられるのは、物や時間だけではなく、自分の存在そのものでもあるのです。

樋野先生が描く「樋野動物園」の理念は、個性と多様性。他者との比較を超えた一人一人の喜びは個性豊かであり、その豊かな個性が集まり、多様性に富んだ「樋野動物園」が、これからの社会の縮図になるではないかと思います。パンダ担当である私も樋野動物園の一員として、無邪気に喜んで 小さなことに 大きな愛を込めていきたいと思います。

 これからもかけがえのない一人一人の喜びや願いが込められた言葉に出会えますように。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美