「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第73回『一億本の向日葵』~平行して存在するいのち~

第73回『一億本の向日葵』

~平行して存在するいのち~

 1月25日㈯は今年最初の松本がん哲学みずたまカフェでした。暖冬と言えど冷たい風の吹く中、14名の方がカフェに参加して下さいました。あがたの森文化会館の木造の教室に人が集まって、テーブルを囲む。それだけでもその空間に流れができて、何となく温もりが感じられます。回を重ねるたびに、あがたの森文化会館の建物との共鳴が色濃くなる気がしています。

 今回のカフェはいつもよりがんと生きる人を支える家族側やご遺族の立場の方が多く、がんに悩む家族の支えにどうやったらなれるか、患者さん本人がどんな言葉を語ったのかなど、そのような話題を中心に語り合いが展開しました。先週の祖母の旅立ちと今回のカフェでの皆さんのお話から感じること。それはどんなに近しい関係であっても、命は決して交わることはなく、平行して存在しているのだということです。患者さんが抱える様々な痛みを自分事のように感じ、自分のできることを最大限したいと思うけれど、思うようにできないやりきれない思いや大切な人を失ってしまうかもしれないという怖さなど、そばにいる「私」の中に沸き起こる様々な感情は、「私」固有のものであります。それと同様に患者さんは患者さんで、また違った感情を抱いていてこれもその人固有のものです。どんなにお互いに理解を深めようと努めたとしても、そこには完全には交わることが叶わない悲しみが存在しています。だとしたら、その悲しみへの覚悟を決め、私固有の様々な感情を丁寧に扱うこと、安心できる場所で話をして解消の機会を持ったり、1日1時間、時間をとってじっくりと向き合ったりして、自分の気持ちに少し遊びのスペースを作ることも大切だと思いました。大切に思う気持ちを受け取りやすい形で手渡していくためには、支える人にとっても自分という器を空っぽにできる場所が必要だと思いました。平行して存在する支えられる人、支える人の命がどちらも大切にされることを願っています。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美