「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第249回「心に咲く花会」 人生の鎔炉 〜 鍛えられる 〜

新刊『もしも突然、がんを告知されたとしたら。』(東洋経済新報社)が今春、発行されるとのことである。 大いに期待される。 最近、『ヨブ記』と内村鑑三(1861-1930)の『ヨブ記講演』を再読する機会が与えれた。
【人は何故に艱難に会するか、殊に義者が何故艱難に会するか、これヨブ記の提出する問題である。 これ実に人生最大問題の一である。 そしてこの問題の提出方法が普通のそれと全く異りおるがこの書の特徴である。--- 実に彼は生涯の実験——殊に悲痛なる実験 ---- を以て問題を提出せられたのである。 教場における口または筆に依る問題の提出及び解答ではない。---- 実に彼は実験を以て大問題を提出せられ、実験を以てこれに答えしめられたのである。―― 火と燃ゆる人生の鎔炉に、鉄は鍛えられんとするのである。文学上の遊戯ではない。 生ける人間生活の血と火である。これヨブ記の特徴である。――】とある。また、【しかし解答は与えられずして与えられたのである。 ―― それで疑問は悉く融け去りて 歓喜の中に心を浸すに至るのである。 その時苦難の臨みし理由を尋ねる要はない。 否苦難そのものすら忘れ去らるるのである。 そしてただ不思議なる歓喜の中に、すべてが光を以て輝くを見るのみである。】と記述されている。大変タイムリーな組み合ではなかろうか!

 

さらに、新刊【『ヨブ記』&『がん病理学』~人間学~】(いのちのことば社)が企画されている。 共に実現したら歴史的大事業となろう!『吉田富三』(1903-1973)没後50年・生誕120年でもある。【電子計算機時代だ、宇宙時代だといってみても、人間の身体のできと、その心情の動きとは、昔も今も変わってはいないのである。 超近代的で合理的といわれる人でも、病気になって自分の死を考えさせられる時になると、太古の人間にかえる。 その医師に訴え、医師を見つめる目つきは、超近代的でも合理的でもなくなる。 静かで、淋しく、哀れな、昔ながらの一個の人間にかえるのである。】(吉田富三)。 母校の鵜鷺小学校の卒業式で、来賓が言った言葉「ボーイズ・ビー・アンビシャス」(boys be ambitious)のウィリアム・クラーク(1826-1886)精神が内村鑑三新渡戸稲造(1862-1933)、さらに南原繁(1889-1974)、矢内原忠雄(1893-1961)と繋がった。 まさに、不思議な『人生の鎔炉』である。