「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第28回『一億本の向日葵』 ~想いが集まる空っぽの器~

第28回『一億本の向日葵』

~想いが集まる空っぽの器~

来週20日㈬に、ABN長野朝日放送主催による「信州がんプロジェクト」特別試写会~がん哲学外来ドキュメンタリー映画『がんと生きる 言葉の処方箋』~が開催されます。担当の方から、「200名招待のところ300名を超える応募があり、看護や介護に携わる方々からも多数応募を頂いています。」と連絡を頂きました。それぞれの方が、がんと生きること、がんと生きる人を支えることに、何かしらの思いや悩みを持ち、この映画に関心を持って下さったのだと想像をしています。現在、本当にがんと無関係に生きられている人はどれくらいいるのでしょうか。自分ががんでなくでも、ご家族、ご友人、一緒に働く人など身近にがんと生きている人がいる、という人は本当に多いと思います。そういった人を含めて、“がんと生きる人”と私は考えます。がんを患ったことで、本当に人は多様な関係の中で生きていることを実感しましたが、自分ががんになる事は、自分だけでなく、自分の周りの人の心にも動揺という波を起こします。がん患者も辛い、周りの人も辛い。本当にそうだと思います。人生の理不尽さばかりでなく、自分の弱い部分、嫌な部分、相手の弱い部分、嫌な部分を知ることは痛みとして感じられました。だからこそ、がんと生きることは人生の深みに船を漕ぎ出すきっかけになるのだと思います。実際に深みに船を出してみると、思っていたよりしっかりとした自分がいたりします。物事を少し客観的に見られるようになり、自分や相手の弱さや冷たさもちょっと歪な“それぞれを思う気持ち”であったりすることを知るのです。苦しみや悲しみ、不快な感情はできれば避けて通りたい、見て見ぬふりをしたいと、私も無意識のうちに自分を守ろうとする時がありますが、樋野先生の言葉の処方箋を思い出し、「階段を上り、背が伸びる時」だと意識し直します。「がん哲学外来」という場所には、集う方が安心して深みに船を漕ぎ出せるように、頑丈な空っぽの器が用意されています。その器には、溢れ出た想いがたくさん集まりますが、その想いは少しずつ濃縮されて、誰かの気持ちを潤す一滴のしずくになります。きっとがん哲学外来ドキュメンタリー映画『がんと生きる 言葉の処方箋』が上映される会場には、「想いが集まる空っぽの器」用意されていると思います。

がんと生きる 言葉の処方箋

 

ひまわり担当🌻齋藤智恵美