「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第76回『一億本の向日葵』~その存在が明日への希望になる~

第76回『一億本の向日葵』

~その存在が明日への希望になる~

2月11日に名古屋にて開催された「どあらっこがん哲学外来メディカルカフェ」の3周年記念に、息子と一緒に参加させて頂きました。この日はドキュメンタリー映画『がんと生きる 言葉の処方箋』の上映もあり、息子と一緒に鑑賞致しました。映画が出来立てほやほやの頃は自分のシーンを観るのがとても恥ずかしく、どうしても俯いてしまっていましたが、今回は一人の観客として作品を楽しむことができました。この映画は不思議なもので、観るたびに気になるシーン、心温まるシーンが変化します。それはまるで自分の変化と歩調を合わせているかのようだと私は思います。今回は出演されている皆さんの姿を見ていて、「すぐ目の前の希望」の大切さを感じました。今日、明日、自分が、大切な人が、笑顔で居るために、今できることは何だろうか―。これからも続くであろう人生の少し先のことを思い描きながらも、今目の前に差し出された喜びを全身で受け取る。それもがんと共に自分らしく生きるために、大切なことだと思いました。

今回は樋野先生の新刊『がん哲学のレッスン~教室で〈いのち〉と向きあう』の出版記念も兼ねていました。その新刊の中で、あらっこのメンバーであり、シャチホコ記念メディカルカフェ代表の彦田かな子さんのご長男でもある彦田栄和さんが、体験者の家族として体験談を綴っています。今回、その栄和さんにお話を聴けたのはとてもうれしい出来事でした。当時小学6年生だった栄和さんですが、子供・親に関係なく、やはり人間というのは支える、支えられるというという役割を臨機応変に感じ取り、一人の人間として家族というコミュニティーを支える大きな力を持っているのだと実感しました。そして栄和さんや、どあらっこのメンバーの皆さんは、家族というコミュニティーを越えて、学校や地域にいる、家族や自分のがんで悩みを抱える子どもたちに向かって、「あなたのお話を聞くことができますよ。」とさり気なく伝え、孤独を和らげる役割を担っています。おとなの世界よりもっと家族や自分のがんのことについて話す環境や機会が少なく、また今まで精神的にも生活的にも依存していた人のがんは、大きく気持ちの土台を揺るがすものだと思います。そんな時に、栄和くんが「お話し聴くよ」って声を掛けたのなら、その人にとって、それはもう本当に明日への希望に繋がるのだろうと、栄和くんの穏やかな顔を見ながら思いました。

どあらっこの皆さんの屈託のない笑顔に出会い、また明日も喜びを見つけて生きていこうと感じられた日でした。

ひまわり担当🌻齋藤智恵美