「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第1回 一億本の向日葵~呼吸を合わせてクリスマス会を楽しむ~

第1回 一億本の向日葵~呼吸を合わせてクリスマス会を楽しむ~

ひまわり画像

様々な『心に咲く花』の中でも、元気でまっすぐというイメージが強いひまわり。「向日葵」漢字の通り、日に向かって咲く花であり、黄色い色も元気な印象を与えるからでしょう。

花言葉を調べてみたところいくつか出てきました。その中に「私はあなただけを見つめる」という花言葉がありました。一人の人を真剣に見つめる一瞬一瞬を積み重ねていけば、いつか「1億本のひまわり」がそれぞれの人生で花ひらくはず。その希望の種をひとつひとつ拾っていきたいと思っております♪

 

マイケルとの出会い~呼吸を合わせて~

 2003年に私はイギリスの北西部のプレストンの田舎にあるハンディキャップを持つ方々が住む施設で、約半年間ボランティアとして住み込みのお手伝いをしていました。そこで重度のパーキンソン病による障害(首より下の体を動かすことができない・発声ができない)を持つマイケルという50代の男性に出会いました。彼の車いすの頭の部分には機械が付いていて、それをピコピコと頭を後ろにそらす形で叩くことで、短いメッセージを伝えることができました。

何人かのボランティアスタッフで彼や他の利用者さんの食事のお手伝いをしていて、私も時々彼の食事のお手伝いをしていました。英語がかなり不十分であった私に、マイケルは頭の後ろのピコピコを使って、いつも色々と教えてくれました。

またこの施設では時々利用者さんとボランティアスタッフで、小さなパーティーをして一緒にお酒を楽しむことありました。マイケルがカルーアミルクというコーヒー味のお酒を飲むのもよく手伝いました。色々な話をして、とても楽しい時間を過ごしたのを覚えています。

マイケルは、噛む力と舌を動かす筋肉の機能、飲み込む機能が低下していましたので、彼の食事のお手伝いは細心の注意が必要でした。彼の舌の動き、呼吸、表情からタイミングを計り、スプーンに乗せた朝ごはんのミューズリー(シリアルの一種で、牛乳でふやかして食べる)とカフェオレを彼の口に運ぶ。アイコンタクトをとりながら、彼の体と一体化して食事を口に運ぶ。そんな感覚でした。

 

そんなある日、施設長のジーンに呼び止められました。ちょっとハスキーな声とハキハキとした口調で「今度、ここでクリスマスパーティーをやるんだけど、マイケルはチエミに食事手伝ってほしいそうよ。いいかしら?」と聞かれました。クリスマスパーティーはここにいる人々にとってとても特別なものでしたので、そのパーティーでの食事を頼まれることは私にとっても特別でとても嬉しかった。利用者さんもスタッフもみんなおしゃれに着飾り、30畳ほどの長細いフロアで食べて飲んでダンスをして、障害という垣根を越えて共に楽しむ最高のパーティ。そこで私はマイケルの食事を手伝いました。彼がパーティーを楽しむこと、その表情を見ることはこの上ない喜びで、本当に楽しかった!

彼の呼吸になり、彼の舌になり、彼ののどになる。一緒にダンスを踊る。私が「わたし」でなくても感じられる喜びに感動を感じたことを今でもはっきりと覚えています。

この喜びを教えてくれたマイケルと、「人生いばらの道、にもかかわらず宴会」で生きるハンディキャップを持った方々との出会いは今、私の『一億本の向日葵』として花ひらいています。