「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第25回『一億本の向日葵』 ~心を込めること~

第25回『一億本の向日葵』

~心を込めること~

 

“心を込める”当たり前のように使っているこの言葉。きっと多くの方が、小学校の教科書の物語や、誰かの言葉などから、自然に覚えた言葉だと思います。「心を込めて作った」「心を込めた言葉を贈る」など、そこには誰かを想う気持ちが存在しています。

 

ここ最近、“心を込める”ことを改めて意識をすることがあります。がんと共に生きる中で、不安や悲しさに心の大部分が占領されてしまうとき、“心ここにあらず”の状態になります。現在起こっている事とは関係ないところへ、心が持って行かれてしまう。そんな感覚です。そう考えてみると、“心を込める”ことは、“心ここにあらず”の状態から“心ここにある”状態に戻してくれることに気が付きます。しかも“心ここにある”状態は、受動的であるのに対して、“心を込める”ことは能動的で、自分で起こすことが可能です。

 

副作用の強い治療中、私は自分の中に引きこもる時間が長くありました。がんと共に使命感を持って生きている人を見ては、「自分にはこんなことできないな…」と落ち込むこともありました。あまりに現在の自分との距離を感じるためだと思います。今に“心を込める”。それは、ご飯を食べること、体を洗うこと、爪を切ること、など自分の体を労わることかもしれませんし、料理を作ること、話を聞くこと、洗濯物をたたむこと、など誰かのためかもしれません。“心を込める”ことが、理想との間で彷徨っていた自分を、今に引き戻す役割をしてくれていました。樋野先生が、“静思する”ことの大切さを教えて下さいます。“静思する”ことは、自分の思い、悲しみも喜びも“心を込めて”感じきることなのだと実感しています。

 

ひまわり担当🌻齋藤智恵美