「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第214回「心に咲く花会」 「真価が感じられる人」 〜 「良書を読み、有益な話を聞き、心の蔵を豊かにする」 〜

今週、月刊誌『ハルメク』(2022年10月号)(添付)が送られてきた。 186〜189ページに筆者の第2回『こころのはなし 〜 医学博士・樋野興夫さんと考える「病気との向き合い方』に、『あなたも私も困っている者同士。 だから前向きな気持ちになれるんです〜』が掲載されていた。【「いいお節介と悪いお節介」、「がんなどの病気になると見て見ぬふりをしてきた問題が表面化します」、「少し無理をしてでも笑ってみる。 困難の中にある人の笑顔は周囲を慰めます」、「マイナスxマイナスはプラス」】が紹介されていた。 2022年9月15日は、『新渡戸稲造記念センター in 新渡戸記念中野総合病院』(中野)から東京女子大学西荻窪)の評議員会、理事会に向かう。

 

コロナショックの蔓延化の日々である。「良書を読み、有益な話を聞き、心の蔵を豊かにする」(新渡戸稲造:1862-1933)。 これが、真の学問の「器量」ではなかろうか! 「器量」といえば、「挑太郎」を思い出す。 鬼ケ島遠征の物語は、子供時代、村のお寺の紙芝居でよく聞かされたものである。 桃太郎が犬・雉・猿という性質の違った(世にいう犬猿の仲)伴をまとめあげたことを挙げ、世に処する人は「性質の異なった者を 容れるだけの雅量」を もたなければならないと 新渡戸稲造は『世渡りの道』(1912年)で述べている。 これは、「競争の名の下に、実は 個人感情で 排斥をする自称リーダーヘの 警鐘」でもある。 1933年3月3日に 三陸地震の大災害があったと記されている。 その時、 新渡戸稲造は 被災地 宮古市等沿岸部を 視察したとのことである。 その惨状を 目の当たりにした 新渡戸稲造は「Union is Power」(協調・協力こそが力なり)と 当時の青年に語ったと言われている。 まさに、今にも生きる言葉である。 時代の波は 寄せては返すが「人の心と 歴史を見抜く 人格の力出でよ!」。 新渡戸稲造は、台湾総督府に招聘されて 台湾に渡り、農業の専門家として サトウキビの普及、改良、糖業確立へと導く。 また、東大教授と第一高等学校校長の兼任、東京女子大学学長などを歴任した。 そして第一次世界大戦後、国際連盟設立に際して、初代事務次長に選任され、世界平和、国際協調のために 力を尽くしている。 世界中の叡智を集めて設立した「知的協力委員会」(1922年)には 哲学者のベルグソンや物理学者のアインシュタインキュリー夫人らが委員として参加し、各国の利害調整にあった。 この「知的協力委員会」の後身がユネスコである。 思えば、癌研時代、今は亡き 原田明夫 検事総長と、2000年『新渡戸稲造 武士道100周年記念シンポ』、『新渡戸稲造生誕140年』(2002年)、『新渡戸稲造没後70年』(2003年)を、企画する機会が与えられた。 順天堂大学に就任して、2004年に、国連大学で『新渡戸稲造 5000円札さようならシンポ』を開催したのが 走馬灯のように駆け巡ってくる。 2022年は、『新渡戸稲造生誕160周年』が企画された。

 

新渡戸稲造の1929年「大阪毎日新聞東京日日新聞」(今の毎日新聞)『偉人には 気体、液体、固体の3つのタイプある』の記事を以前に 聞いたものである。
気体: ガス性に似て名声は広がっているが、接してみると 大した印象もない人
液体: 水が氾濫するように世間に一時の人気を得て、世の中に利益をもたらすが、総合すると後に残るものはない人
固体: 芳しさはガスのように広がることもなく、水のように流れることもないが、その人自体に含蓄されており、近づけば近づくほど 真価が感じられる人

 

「聖書とがん」(2020年 イーグレープ発行)出版の時『固体は、樋野先生のように ブレない人ですね! 私は読書が苦手で 知識も浅く、常に自信がなく ブレブレになってしまいますが、人の心の片隅に 染みるような人になれたら…と思っています』と謙虚な、微笑ましいメールを頂いたことが鮮明に蘇ってきた。 涙無くして語れない!


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