「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第248回「心に咲く花会」 『すき間サイエンス』 〜 継続の日々 〜

2023年7月22日 第12回『がん哲学外来コーデイネーター養成講座in 東京』
(東京都墨田区 KFC Holl & Roomsに於いて)が開催される運びなった。今回の総合テーマは『原点回帰 〜 がん哲学外来へようこそ 〜』とのことである。 15年前の2008年1月 順天堂大学の病院の外来で、『がん哲学外来』を開設した。 そして、病院の外にも『がん哲学外来』が必要と痛感し、最初は、2008年9月 横浜のシェラトンホテルの2階のカフェで、『横浜がん哲学外来』として、院外では日本で初めて行った。 そして、7年前の2016年に今回のタイトルの『がん哲学外来へようこそ』(新潮新書)(添付)が発行された。

 

『がん哲学外来へようこそ』の『あとがき』で【『がん哲学外来』は誰にでもできます。 確かに『がん哲学外来』での活動に、私の医師としての立場や知識が全く関係していないとは言えません。 私が順天堂大学病理・腫瘍学の教授(現在、名誉教授)だからという理由でわざわざ足を運んで下さる方がいるのも事実です。 しかし、もはやそのコンセプトさえ明確になっていれば、あとは誰がやってもいいと私は思っています。 患者さん自身がお住まいの地域で『がん哲学外来』や『カフェ』を立ち上げてもいいのです。 医療関係者でない人でも、自分の能力と経験を生かし、さらにそうした人を複数集めることで、チーム医療としての『対話』が開設できるでしょう。 医学的な知識がなくても、『これは医師や医療関係者に聞くべきだ』という対応ができる人ならばいいわけです。】と記述したものである。

 

『がん哲学外来の話』(2008年小学館)(添付)では、【診療ではなく、セカンド・オピニオンでもなく、がん相談や心理カウンセリングとも違う。『がん哲学外来』は日本のがん医療に足りないもの、気づいていない「何か」を埋める『すき間サイエンス』であり、がん医療改革のための『場の設定』であるとした。】
『がん哲学外来入門』(2009年毎日新聞社)(添付)の『はじめに』では、【がんの闘病生活を送っている人、とりわけ治る可能性が低いと宣告された人に最も必要なのは、慰めや励ましの言葉ではなく、自分を掘り下げる哲学なのではないでしょうか。】と記述した。 継続の日々である!

 


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第247回「心に咲く花会」 内村鑑三 & 新渡戸稲造 〜『行動する人間』&『ぶれぬ大局観』〜

今日(2023年2月23日)は、天皇誕生日の休日である。 2023年2月26日の『読書会』の今回の箇所:新渡戸稲造『武士道』(岩波文庫矢内原忠雄訳)の第13章『刀・武士の魂』を静読する機会が与えられた。 今回の担当は 大弥佳寿子氏である。【勝海舟(1823-1899)伯は 我が国歴史上 最も物情騒然たり時期の一つを くぐって来た人であり、――― ナニ蚤や虱だと思えばいいのさ。 肩につかまって、チクリチクリと刺しても、ただ痒いだけだ、生命に関りはしないよ】(『海舟座談』)の文章は、何回読んで いつも心に染みる。

 

毎月の定例の読書会は、2007年からスタートした。 新渡戸稲造(1862-1933)『武士道』と内村鑑三(1861-1930)『代表的日本人』(岩波文庫、鈴木範久訳)を交互に読み進めている。 札幌農学校の初代「教頭」のクラーク(William Smith Clark、1826-1886)博士の教えを受けた2期生『内村鑑三 & 新渡戸稲造』は『行動する人間』であったと若き日から学んだものである。 『源流・原点回帰』の復習である。【樋野先生のユニークで わかりやすい解説とさり気なく語られるメッセージに励まされ、人生の生きる意味を あらためて考える ひとときになります。】と心温まる紹介がなされている。 ただただ感謝である。

 

2007年から始まった読書会は 早16年目を迎えた。 20世紀の初めに、共に英語で書かれているところに、『新渡戸稲造内村鑑三』のスケールの大きさが窺い知れよう。 まさに、『人生邂逅の3大法則 〜 良い先生、良い友、良い読書 〜』の実感である。『出会い』による『ぶれぬ大局観の獲得』である。 継続の『心得と胆力』を思うこの頃である。『源泉を忘れて、末にのみ、くんでいる。 なぜ、さかのぼって歴史を太く流れつつある一大生命の源を きわめんとせぬのであるか。』(内村鑑三著『ロマ書の研究』)の現代への警告が甦る。『最も必要なことは、常に志を忘れないよう心にかけて記憶することである』(新渡戸稲造)。『本流 vs 主流』の違いを静思する時でもある。『古いものには、まだ再活用される要素があるのである』(内村鑑三)の教訓が今に生きる。『人生は短し、真理は長し』(内村鑑三)の言葉が、現代社会に生きる『叡智』として身にしみる今日この頃である。 まさに『人生の目的は品性の完成なり』の模範であろう!


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第246回「心に咲く花会」 『17条憲法』と『歎異抄』〜 『言葉の処方箋』 〜

筆者は、2023年2月19日 山梨ホスピス協会主催の甲府市総合市民会館での『武田信玄記念 がん哲学外来 メディカルカフェ「風林火團」』(代表者:阿部文明)に赴いた(添付)。 総合司会:若月明子氏のもと、山梨ホスピス協会理事長の阿部文明先生の開会挨拶で始まり、窪田恭子氏が、柳田邦男氏の翻訳絵本『だいじょうぶだよ ゾウさん』の朗読をされた。 柳田邦男氏には、筆者が2010年の第99回日本病理学会の大会長の時、特別講演をして頂いた。 また、昨年2022年の栃木県での【第10回がん哲学外来市民学会(大会長:平林かおる)のテーマ『人の心に贈り物をのこしていく』】でも特別講演をなされた(添付)。 今回、鮮明に思い出された。 その後、小グループでの『語り合い』で盛り上がり、そして、駒井久子氏のピアノ伴奏で『365日紙飛行機』と『いのちの歌』を参加者の皆様で熱唱された。 中村由喜氏が、スライドの準備して頂き、筆者は、講演『言葉の処方箋』の機会が与えれた。 山梨ホスピス協会理事の仙洞田保氏の閉会の挨拶で終えた。 今年(2023年11月12日)の第6回日本Medical Village学会(大会長:阿部文明)も大いに楽しみである。

 

山梨英和学院・山梨英和中学校高等学校の第21代校長 (2002年〜2004年)を勤められた岩間孝吉先生も参加されていた。 筆者の講演の後の質問タイムで、【『聖徳太子の17条憲法』と『親鸞歎異抄』の文章に聖書的(聖書からの引用)な言葉があるのか? 空海(774~835)と最澄(767~822)は遣唐使として、中国に渡り景教を知り、『空海新約聖書最澄は、旧約聖書を帰国時に持参した』と若き日に聞いたものですが、如何でしょうか? 法然(1133~1212)& 親鸞(1173~1262)は、その影響を受けたのでは? 『歎異抄』に反映されているのでは? 聖徳太子(574年~622)は遣隋使の時代ですね! その時も中国には景教が入っていますね!『17条憲法』にも反映されているのでは?】が、大いに話題になった。 全国の『学生の博士論文の課題』になれば歴史的快挙となろう! 今年(2023年)は、親鸞生誕850周年でもある。 また、筆者の『富士山子』も話題になった。 今は亡き母から、筆者の誕生の年の元旦の夢が『富士山』であり、幼児の時から『富士山子』と 毎日母に励まされたものである。 脳裏に焼き付いている。 今回は、大変有意義な充実した貴重な『甲府の旅』となった。


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第245回「心に咲く花会」 『人の心に贈り物』〜『消耗型』&『増殖型』 〜

 

今年(2023年)は

新渡戸稲造(1862-1933)à 没90周年

勝海舟(1823-1899) à 生誕200周年

矢内原忠雄(1893-1961)à 生誕130周年

河井道(1877-1953)à 没70周年

吉田富三(1903-1973)à 没後50周年・生誕120周年

に加えて、親鸞(1173-1263)生誕850周年でもある。

 

筆者は、2023年2月17日は、病理組織診断の業務を行う。 筆者は、若き日から病理学者として顕微鏡で細胞を見ながら、『自分はどういう人間か』&『この世でたった一人しかいない存在』と学習したものである。

以前、アメリカでベストセラーとなった、『Multipliers: How the Best Leaders Make Everyone Smarter』(翻訳『メンバーの才能を開花させる技法』)が今回、鮮明に思い出された。【『消耗型=周囲の人たちにマイナスの影響を与える』、『増殖型=メンバーの能力を倍増させる』】とある。 まさに、『あなたがたに将来と希望を与える』(エレミヤ書29章11節) & 『わたしが来たのは、羊がいのちを得、またそれを豊かに持つためです。』(ヨハネ10章10節)の実践であろう! ルツの『あなたの行かれる所へ私も行き、――』(ルツ記1章16節)は、誠実なナオミ(義母)とボアズ(夫)との出会いが根底にあろう。『すべての人を照らすそのまことの光が世に来ようとしていた』(ヨハネ福音書1章9節)の学びである。

 

筆者は、2023年2月19日 甲府市総合市民会館での講演『言葉の処方箋』の機会が与えれた。 『人の心に贈り物をのこしていく』でグループでの語り合いも企画されるとのことである。 内村鑑三(1861-1930)の『後世への最大遺物』の『われわれが死ぬときには、われわれが生まれたときより 世の中を少しなりとも善くして 逝こうじゃないか』&『勇ましき高尚なる生涯=世の中への贈物としてこの世を去る』が本当の『言葉の処方箋』ではなかろうか!

第244回「心に咲く花会」 『主体的に隣人となる』〜『暇げな風貌』&『偉大なるお節介』〜

写真家の河合章氏から2023年2月10日の千葉県八街市での講演『北総がんカフェin八街:樋野興夫先生特別講演会 〜 なぜ、がんカフェをはじめたのか ?』と2月11日の『風の谷・がん哲学外来カフェ in いちかわ』1周年記念【樋野興夫先生講演会『主体的に隣人となる』〜『暇げな風貌』&『偉大なるお節介』〜】の写真が送られて来た(添付)。「2月10日、11日とお疲れ様でした。 両日共、大盛況でしたね。」との心温まるメールも頂いた。 スルメ3姉妹(長女:中野綾子氏、次女:森尚子氏、三女:戸田裕子氏)も参加され【素敵なひのきの建物の中、小さな椅子に座り みんなで小さなテーブルを囲んでのカフェ、良き思い出になりました。 参加者皆さんが、たくさんの種を蒔かれたように思います。】との励ましのメールを頂いた。

 

また、【番組名: NHKスペシャル 立花隆 思索ドキュメント「がん 生と死の謎に挑む(2009/11/23)」】の【再放送予定日: 2023年2月14日(火)午前9:00~ 2023年2月15日(水)午前0:00~(14日の深夜)BSプレミアム『プレミアムカフェ』枠内にて放送】の連絡が届いた。 また【樋野先生と立花隆さんの対談は、一部ですが、今でも、ネットでも読むことが出来ます。 ネットよりコピーしました。 『立花:僕も自分ががんになる前から、がんに興味を持ち、いろんな本を読みましたが、読めば読むほど奥が深いと思いますね。 樋野:なぜこの地上にがんが存在するのか、誰も説明できません。 私たちが説明できるのは、WHYではなくHOW、いかにしてがんが存在しているかという点です。 立花: 恐れ入りました。 これまで、そういう形でがんを語った人はいないんじゃないですか。』】との連絡を立命館大学の田中真美先生から頂いた。 立花隆氏(1940 - 2021)と2009年対談したのが鮮明に思い出された。

 

2023年2月13日恵泉女学園大学に赴いた。 東久留米―>秋津―>新秋津―>府中本町―>稲田堤―>京王稲田堤―>京王多摩センターに向かった。 パルテノン大通りを散策し階段を登ってパルテノン多摩の池を眺めた。 そして、スクールバスで、恵泉女学園大学に到着した。帰りは、京王多摩センター ―>新宿―>池袋―>ひばりヶ丘であった。 大変貴重な『雨傘の多摩の旅』であった。


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第243回「心に咲く花会」 時空を超え出会う 〜 内村鑑三 & 新渡戸稲造 & 南原繁 & 矢内原忠雄 〜

2023年2月9日は『ひばりヶ丘―>池袋―>新宿―>経堂【恵泉女学園】―>新宿―>中野【新渡戸稲造記念センター】―>御茶ノ水順天堂大学】―>池袋―>東久留米』の電車の旅であった。 電車の窓から見る景色は快晴であった。

 

想えば、筆者に強い印象を与えた言葉は、小学校の卒業式で、来賓が話された『ボーイズ・ビー・アンビシャス』(boys be ambitious) である。 札幌農学校のウィリアム・クラーク(1826-1886)が、1877年その地を去るに臨んで、馬上から学生に向かって叫んだと伝えられている言葉である。 クラーク精神が内村鑑三(1861-1930)、新渡戸稲造(1862-1933)を生み、筆者は、内村鑑三新渡戸稲造へと導かれ、英文で書かれた『代表的日本人』(内村鑑三) と 『武士道』(新渡戸稲造)が、若き日から私の座右の書となった。 さらに2人を恩師とする南原繁(1889-1974)・矢内原忠雄(1893-1961)の読書に繋がった。 この4人は、筆者の人生の起点であると言っても過言ではない。 まさにパウロの言葉『すべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています』(ローマ人への手紙8章28節)の実体験でもある。

 

筆者が新渡戸稲造の言葉で感銘を受けた『言葉の処方箋』10か条
1.間断なき努力は進歩の条件
2.自分の力が人の役に立つと思うときは進んでやれ
3.意思は人なり
4.人の欠点を指摘する要はない。人のあやまちは語るには足りぬ
5.学問より実行
6.理由があっても腹をたてぬこそ非凡の人
7.花は芽にあり
8.威厳は優しき声に現れる
9.われ太平洋の橋とならん
10.心がけにより逆境も順境とされる
一見『理解不能モード』である複雑な現代社会・混沌の中での『一筋の光』を痛感する日々でもある。 時空を超え『心が通じ合う人と出会う』である。

第242回「心に咲く花会」 【「隙間」を埋める「対話の場」】 〜 悩みを「解消」する 〜

筆者は、2023年2月3日『肝炎等克服政策研究事業』評価委員として『研究成果発表会+評価委員会』にzoom参加した。 癌研時代、『肝癌におけるB型肝炎ウイルス(HBV)DNAの組み込み』を日本で最初に報告したものである(下記)。

Hino O.,et al.:Detection of hepatitis B virus DNA in hepatocellular carcinomas in Japan. Hepatology 4: 90-95, 1984

Hino O.,et al.:Relationship between serum and histochemical markers for hepatitis B virus and rate of viral integration in hepatocellular carcinomas in Japan. Int J Cancer 35: 5-10, 1985

Hino O.,et al.:Hepatitis B virus integration site in hepatocellular carcinoma at chromosome 17;18 translocation. Proc Natl Acad Sci U S A 83: 8338-8342, 1986

 

また、遺伝性腎発がんラットの原因遺伝子(Tsc2)を同定(tuberous sclerosis complex, TSC)し、日本結節性硬化症学会を設立した。 進行過程で高発現してくる新規遺伝子(Erc)を発見し、Erc遺伝子産物は、血中に分泌され、血液診断に使用できることを明らかにした。 そこで、筆者らは、検出するELISA (酵素結合免疫検査)測定キットの開発を行った。 それが、2005年日本で初めて『アスベスト中皮腫外来』を開設に繋がった。 さらに、外来で患者と接し、医療者と患者の『対話』の重要性を再認識すると同時に、『哲学的なアプローチ』が必要だとの思いに至り、2008年、医療者の立場からの『がんの知識の提供』ではなく、医療現場と患者、その家族の間にある【「隙間」を埋める「対話の場」】として順天堂大学で『がん哲学外来』を開設した。『がんであっても、病人ではない』充実した生き方をするための支援の一端を担う場の提供である。『がん哲学』は、人間そのものについて考える人間学であり、『がん哲学外来』とは、がんにまつわる治療の不安から人間関係の悩みまで、あらゆる相談に『対話』で患者さんの悩みを『解消』する手法である。『純度の高い専門性と社会的包容力』をもって、『ウイルス発がん』から『遺伝性がん』そして、『環境がん』、さらに『がん哲学』へと『不連続の連続性』で先進したものである。 本当に『不思議な人生の流れ』を痛感する日々である。