「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第311回「心に咲く花会」 理論的根底 〜 先達の『言葉の処方箋』〜

2023年12月8日病理組織診断業務に赴いた。

【『病理学』は顕微鏡を覗きながら、大局観を持つことが求められる分野でもある。科学としての『病理学』を極めることは、『森を見て木の皮まで見る』ことであり、マクロからミクロまでの手順を踏んだ『丁寧な大局観』を獲得する『厳粛な訓練』の場でもある。まさに『風貌を見て、心まで診る=病理学』の時代的到来であろう。『病理学=理論的根底』の懐の深さを感ずる。がん細胞は、増殖の制御が効かなくなって、いつまでも増殖を続けてしまうのでいろいろな不都合が出てくる。 正常細胞は、使命を自覚して任務を確実に果たす、自己制御と犠牲の上で生きている細胞であるが、がん細胞はこの目標を見失って、増殖することに長けた細胞に変貌しているということである。】

福島県石川郡浅川町にある【吉田富三記念館】から、『この度、吉田富三(1903-1973)博士没後50年・生誕120年記念事業としまして記念誌の発刊を計画進めております。』との連絡があり、『記念誌への執筆』の依頼を受けた。【吉田富三博士は、『自分のオリジナルで流行をつくれ』で、1) 顕微鏡を考える道具に使った最初の思想家 2) 顕微鏡でみた癌細胞の映像に裏打ちされた『哲学』 3)『がん細胞で起こることは人間社会でも起こる』=『がん哲学』、【事に当たっては、考え抜いて日本の持つパワーを充分に発揮して大きな仕事をされた。】と癌研究会癌研究所時代の恩師:菅野晴夫(1925-2016)先生に学んだものである。

   

筆者は、医師になり、癌研究会癌研究所の病理部に入った。 当時の所長であった菅野晴夫先生は、南原繁(1889-1974)が東大総長時代の東大医学部の学生であり、菅野晴夫先生から、南原繁の風貌、人となりを直接うかがうことが出来た(添付)。 そして、必然的に『がん哲学=生物学の法則+人間学の法則』(添付)の提唱へと導かれた。 さらに、【『陣営の外=がん哲学外来=生きることの根源的な意味を考えようとする患者と、がん細胞の発生と成長に哲学的な意味を見出そうとする病理学者の出会いの場=語るのは先達の『言葉の処方箋』】へと展開した。 不思議な時の流れを痛感する日々である。