「心に咲く花会」樋野興夫コラム

一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野 興夫(順天堂大学 名誉教授)コラムです

第323回「心に咲く花会」 『医療の原点』 〜 『苦痛に対する思いやり』 〜

2024年1月26日病理組織診断業務に向かった。 【病理学は 顕微鏡を覗きながら、大局観を持つことが求められる分野でもある。『森を見て木の皮まで見ること』であり、『丁寧な大局観を獲得する厳粛な訓練の場』】でもある。

西武池袋線の電車から『雪の美しい品性のある格調高い富士山』を眺めた。 筆者は、幼年時代から 母に、『誕生の年の初夢に富士山を見た=富士山子』と育てられた。 『幼年時代のインプリンテイングは生涯に影響を与える』ことを痛感する今日この頃である。

96歳で亡くなった筆者の母(樋野壽子:1923年2月20日 〜 2019年6月3日)は、天寿を全うした。 故郷(島根県出雲大社鵜峠)は無医村であり、幼年期、熱を出しては母に背負われて、峠のトンネルを通って、隣の村(鷺浦)の診療所に行った体験が、今でも脳裏に焼き付いている。 人生3歳にして医者になろうと思ったようである(添付;自由学園初等部の稲村祐子先生から)。 少年時代の原風景は『すべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています』(ローマ人への手紙8章28節)の体験である。

医学部の学生には『因幡の白兎』の物語を話す。【島から本国に帰る道がないから、海鮫に数をカウントしてやるから一列に並べと言って、ピョンピョン、ピョンピョン背を飛ぶ。 最後にウサギが海鮫に『だました』と漏らす。 海鮫が怒って皮を剥いた。『稲佐の浜』で、人々が、いろいろな治療法を授けたが、病状は悪化した。 つまり、病気というのは、正しい治療をしなかったら、病気は悪化する。 大国主命が通ったときに、彼は正しい治療法を授け、一発で治った。 海鮫を騙したから『ざまみろ』と言うことも出来る。 しかし大国主命は、その境遇を問わなかった。『治療は境遇を問うてはならない』】ということである。

医療で大切なことは『他人の苦痛に対する思いやり』であり、一言で言えば『弱いもの いじめをするな』ということである。 出雲大社は『医療の発祥』と言われる所以である。 『医療の原点』がここにあろう。